∞湯の街と連携　まちかど演奏　地域で存在感
　　●食と温泉の国のオーケストラ
　山響が１０月３日に山形テルサで開いた「モーツァルト交響曲全曲演奏」の定期演奏会。開演３０分前の楽屋を、上山温泉の女将会のメンバーら約１０人が訪れた。
　同会は、山響が０７年から８年かけて行うこの全曲演奏をすべて聴いた人に、宿泊券を贈ろうと決めた。その目録を持参したのだ。
　温泉街のある上山市は、山形市内へ車で３０分。女将会の会長で旅館「古窯」の佐藤洋詩恵（５７）は「これからの観光地は文化が必要。山響を聴きに来て、上山の旅館に泊まる、という旅をアピールしたい」と期待する。
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　食と温泉の国のオーケストラ――山響がうたうキャッチフレーズだ。それと呼応する動きが、地域からも広がりつつある。楽屋に同行した上山市の桝口豊副市長は言う。「山響は、上山の地域の活性化につながっている」
　同市栄町１丁目に住む音楽講師佐竹圭子（４９）は５年前、山響のコンサートと温泉を組み合わせたツアーを企画した。長年の山響ファン。０４年に常任指揮者に就いたばかりの飯森範親から「いい音楽を聴いて、おいしい物を食べて、温泉に入る企画をしてほしい」と提案されたのがきっかけだった。
　娘の学校のＰＴＡの謝恩会があった地元の旅館に、意を決して協力を求めると、「宿泊代安くするよ」と快諾を得た。山響も「演奏会のチケットは割引する」と約束。話はトントン拍子で進み、１泊２食付き、新幹線代とコンサートのチケットを合わせて約３万円の格安プランが実現した。
　山響ファンクラブが主催したこの「山響温泉グルメツアー」は福岡、山梨、埼玉、千葉など遠方からも客を集め、新たな山響ファンの開拓にもつながった。
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　上山市は２月にアカデミー賞を射止めた映画「おくりびと」（滝田洋二郎監督）で脚光を浴びた。温泉街近くの旧美容室が、本木雅弘が演じた主人公の実家として、ロケ地になったからだ。
　旧美容室は受賞後、「上山コンチェルト館」として改装され、４月に公開された。もともとは、市経営企画課の佐野千鈴（ち・ず）（３１）がロケ地を探していた「おくりびと」の関係者に紹介した。地元でも目立っていたわけではない建物だ。
　しかし公開後の７カ月だけで、国内外から約１万８千人が押し寄せる一大観光名所になった。
　佐野はいま、こう考えている。
　「滝田監督は『山形の自然が賞を取らせてくれた』と語った。市民の人たちに、世界に評価される場所に住んでいるんだという実感を作っていきたい」
　その仕掛けの一つが、同館の壁にこの夏加わったサインだ。
　〈おくりびとに出演できた事、一生の思い出です！　山形交響楽団音楽監督　飯森範親〉
　山響は主人公が所属するオーケストラとして映画に出演。アカデミー賞受賞は、山響への注目度も高める結果になった。同館は、指揮者役で作品に登場した飯森を８月に招き、〈ありがとう！上山！〉と書かれた滝田監督のサインの隣に、サインしてもらった。
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　上山コンチェルト館を運営する団体は、山響と連携した新たな取り組みも模索している。
　現在、コンチェルト（協奏曲）の名にふさわしく「まちかどコンサート」と題して同館やＪＲかみのやま温泉駅などでミニ演奏会を月１回開いている。出演者はアマチュアが多いが、山響の楽団員にも同館でのコンサートに出演してもらえないか――。
　山響と地域とのかかわりは、確実にふくらみつつある。（敬称略）

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