片品村特産の大豆「大白（おお・じろ）大豆」が、本格的な実りの秋を迎え、１８日に収穫感謝祭「片品大白祭」が開かれる。同村築地の豆腐店「尾瀬ドーフ」が、輸入品に押され自家製ミソ用に細々と作られるだけになっていた大白大豆の復活を目指してから１２年。優良品種が育成され、作付面積も増えたことから、ようやく原料をすべて大白大豆に切り替えるめどが立った。（渕沢貴子）

　「やっと大白大豆の復活が終わった。これからは、地大豆１００％で作れるようになる」

　豊かに実った大豆畑を前に、尾瀬ドーフの千明市旺（ち・ぎら・いち・お）社長（６２）は笑みを見せた。

　親から継いだ酪農経営に失敗してうつ病になり、ふと幼い頃見た豆腐の人気店を思い出し、「豆腐屋になりたい」と思いついたのが９４年。翌年、豆腐製造機の使い方を２日間メーカーに習っただけで豆腐屋を始め、「今が１００点なら２０～３０点の出来」の豆腐を村の家々に売り歩いた。

　最初は輸入大豆を使っていたが、「おばあちゃんたちが何人も『大白大豆を使えばおいしい豆腐ができる』と言うので、やってみようと思った」という。だが、当時は農家が自家製ミソ用に少量作る程度で、他品種との交雑も進み、「昔より粒が小さくなった」と言われていた。

　それでも、他の大豆より甘くて脂肪の少ない大白大豆を使うと、大豆のうまみをしっかり感じるおいしい豆腐ができた。

　無農薬で栽培するため、他の農家と土地を交換して、農薬が飛んでこない奥地を開墾。大白大豆を沼田市周辺や長野、山梨、青森など片品と環境が似た土地でも栽培してみたが、片品産のものより味が悪く、「誰にもまねされない」と自信を深めた。

　やがて、口コミでざる豆腐などが評判となり、グルメ番組などマスコミにも取り上げられるようになった。

　０５年、勢多農林高校の植物バイオ研究部と共同で、大白大豆の品種改良に乗り出した。同部の教諭と生徒が大白大豆の選別と交配を重ね、収量が多く甘みも増した優良系統の育成に成功。この研究は、７、８日に開かれた日本学校農業クラブ全国大会の食料・生産部門で２年連続で優秀賞を受賞するなど、高い評価を得ている。

　この品種の種が今年５月、尾瀬ドーフが栽培を手がける畑９ヘクタールほどにまかれ、収穫を待つばかりになっている。作付面積も昨年より２～３ヘクタール増え、今年の収穫分からは、他の国産大豆で補うことなく、必要な大豆の全量を大白大豆でまかなえそうだという。

　課題もある。コンバインを使うとロスが多いので、収穫はすべて手作業。毎年農業支援ボランティアに収穫を手伝ってもらわないといけない。

　グルメな豆腐を作るライバルが増えたためか、ピーク時には９千万円台だった年商も８千万円を切るようになった。「口コミ頼みだけでは駄目だ」と、大消費地の東京に販路を広げる準備を始めた。

　新商品の開発も進めている。大豆の粉末をまるごと使ったおからの出ない豆腐だ。他の国産品は１キロ２００円ほどだが、大白大豆は１キロ約５００円で農家から買い取っており、「大量に出るおからがもったいない」し、廃棄物も減らしたいと考えたという。試作品を食べさせてもらうと、味が濃厚で、何も付けずそのまま食べてもおいしい。千明社長は「もっと品質を上げたい」と意気込んでいる。

　大白祭は、同社から車で２分ほどの畑で開催。豆腐やおからコロッケなど大豆加工品の試食と販売があるほか、勢多農林高校が考案した大白大豆の焼き枝豆も試食できる。問い合わせは尾瀬ドーフ（０２７８・５８・３４８０）へ。

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